最低賃金の大幅改定と賃金設計の見直し

賃金逆転による不満を防ぐポイント
2025年10月から、全国平均で時給1,100円超への最低賃金改定が予定されています。
薬局やクリニックなど人材依存度の高い業界では、単なる時給アップでは済まない賃金設計の見直しが欠かせません。
特に「最低賃金ギリギリのスタッフだけ昇給し、もともと高い時給の従業員は据え置き」というケースでは、内部の不公平感が退職やモチベーション低下につながる恐れがあります。
1. 現状分析と差額確認
まず、地域ごとの新最低賃金を確認し、全スタッフの時給換算額を洗い出しましょう。
基本給ベースで1円でも下回れば即時改定が必須です。
この段階で、最低賃金近辺のスタッフだけでなく、上位層との賃金差にも注目します。
2. 賃金テーブルの「相対的バランス」を維持
最低賃金を底上げすると、従来の「経験や責任に応じた差」が縮まり、「後から入った新人とほぼ同じ時給」という不満が起こりがちです。
職種別・経験別の昇給ステップや等級制度を再構築し、「勤続年数やスキルが上がると確実に評価される」ことを示しましょう。
3. 人件費増を吸収する仕組み
全体の底上げは経営負担となります。
変形労働時間制の活用、シフト最適化、業務効率化(医療DX・AI調剤支援など)で、人件費増をカバーする戦略が必要です。
4. 助成金・補助金の活用
厚生労働省の業務改善助成金は、賃上げに伴う設備投資や職場改善に利用可能です。
社労士と連携し、賃金規程の整備や申請準備を早めに進めましょう。
5. スタッフへの丁寧な説明
改定の背景や今後の昇給計画を透明性高く共有することが、不満防止の最も効果的な方法です。
「全員に平等な昇給は難しいが、役割や成果に応じて評価する」というメッセージを具体的に伝えることで、安心感と納得感が生まれます。
最低賃金改定は、単なるコスト増ではなく、職場全体の評価制度を見直す好機です。
薬剤師として現場を経験し、社労士として労務管理を支援してきた立場からも、「相対的賃金バランスの維持」「評価制度の明確化」「スタッフへの説明」が成功のカギだと感じます。
このタイミングで就業規則や賃金規程を整理すれば、離職防止と採用力強化という長期的メリットにつながります。
経営者にとっても、患者さんにとっても、「安心して働き続けられる職場づくり」が地域医療を守る第一歩です。